“やる気” を科学する
モチベーション診断 サービス

事例レポート1

全社の「やる気」を改善
ポイントは「明確な方針と実践」


社長さんの不安


「社員はついてきてくれるのだろうか?」
 間近に迫った組織改革を前に、ITサービス企業のA社の社長X氏は不安を感じていました。技術者の派遣を主体にこれまで業績を上げてきましたが、リーマンショックを契機に伸び悩むようになりました。そのままではやがて行き詰まると見て、X社長は自社製品の開発などの新しい方向に舵を切ることにしました。
 そして2010年、大幅な組織変更、給与体系の変更等を含む改革の方針を打ち出しました。幹部、マネージャーとはこれまでに無いほど協議を重ね、社員に対しても十分に説明を行った上での決定でした。X社長は今回の決定に自信を持っていました。

 ところが、ひとたび会議の場を離れて社員や幹部に話を振ると様子が違いました。ノリが悪いというか積極的ではないというか、やる気が感じられないのです。表立って反対されるわけでもありません。違和感を感じながらも、その後何人かとやりとりしますが反応は同じです。違和感は次第に不安へと変わっていきました。
 もちろん、熟慮のうえ決めた改革を実行することに迷いはありませんでした。ただ、漠とした不安だけは消えませんでした。「みんなやる気はあるのか?どうしてハッキリ伝わってこないのか・・・。」

直接把握できるのは100人程度まで


 A社は現在では従業員約250人を抱えています。創業後しばらくは社員も数十人程で、特に意識しなくともフェイス・トゥ・フェイスで全社の雰囲気が把握できました。ところが人数が増えるにつれ、社員と直接コミュニケーションがとれる機会は減っていきました。現在の人数規模では、ザッと社内を見渡すだけで状況を把握するのはほとんど不可能です。A社のように成長過程にある企業が必ずと言っていいほど経験する問題です。
 弊社の経験からいうと、100人程度までであれば、フェイス・トゥ・フェイスで社内の雰囲気を把握することが可能です。それ以上の人数になるとフェイス・トゥ・フェイスだけでは無理が出てきます。

 弊社は、紹介を受けてX社長にモチベーション診断を紹介しました。この診断では、一定の基準に則った「やる気」に関する調査を、全社アンケートのような形式で行うことができます。これを組織改革の実施前と実施後の2回行い、結果を比較していただくことになりました。
 なお初回実施あたり、X社長はアンケート(モチベーション診断)を全員強制とせず、回答するかどうかは各人の自由意思に任せることにしました。その結果、当初は良くても社員の3割程度と見込んでいた回答者(初回:組織改革実施前)の数は最終的に7割強にまで達しました。X社長の目からは社員の関心は低いように見えていましたが、内心では高かったことがうかがえます。
 さらには、Webによる回答形式もプラスに働いたと考えられます。Web上での回答であれば、面と向かって上司や幹部に伝えるよりも幾分ハードルは下がると考えられるからです。

数値に表れた、やる気の“役職間格差”


 弊社モチベーション診断では、1回につき約60問の質問に回答してもらいます。回答は選択式です。回答締め切り後は集計と分析を行います。
 診断の趣旨はモチベーションに関して社内全体の傾向を“ザックリ”把握することにあります。組織改革前において、社員が会社に抱いている気持ちを「満足」と「不満足」の2つで表わしたものが図1です。
 一般社員の「満足」の割合が7割と比較的高いものの、部長以上では過半数が「不満足」という状態でした。課長や主任でも「満足」がかろうじて過半数でしたが、半数近くが「不満足」な状態でした。

 “現場(一般社員)は危機感を持たずぬるま湯に浸っている、それを管理職が見てカリカリしている”・・・もちろん、このデータだけでは詳しいことは分かりません。一般に上司のモチベーション低下は、部下へも影響し、やがて組織全体の活力を低下させると言われています。もともと業績向上をにらんでのA社の組織改革でしたが、モチベーションマネジメントの観点からも、この時期に手を打つのは正しいと思われました。

図1.モチベーション状況(初回:組織改革 実施前)

満足
不満足
一般社員
69%
31%
主任
53%
47%
課長
56%
44%
部長以上
44%
56%

「満足」「不満足」とは全質問(約60問)への回答結果を分析し判定した指標です


 図2は、自分を取り巻く要素を表す4項目について「満足」と「不満足」の状態を示したものです。
「会社方針」と「給与」については「不満足」、「人間関係」と「作業条件」については「満足」とハッキリ分かれています。
 これを見ると、赤い「不満足」の部分をどうにかしなければ、と思われがちです。ですが実のところ、このグラフ分布は日本の会社における平均値的な状態なのです。つまり、会社方針と給与で不満な分を、人間関係と作業条件の良さが補うことでバランスとっている状態です。逆に言えば、このバランスが崩れたグラフ分布になっていたら要注意です。
 こうした傾向が“ザックリと”把握できた後で気になる部分があれば、個別面談などフェイス・トゥ・フェイスな手段で補完する方法を採ります。

図2.要素別に見たモチベーション状況
(初回:組織改革 実施前)



課題も見えた2回目の診断


 組織改革が実行され1年が経過しました。主だった人事異動は完了し、新たな目標に向け徐々に動き出していますがまだ道半ばです。
 A社では、2回目のモチベーション診断を行いました。改革後の状況を確認するためです。今度も診断は社員の自由意思としましたが、前回と同様、全社の7割程度の回答が得られました。

 図3は2回目の診断における「満足」「不満足」の結果です。
 「満足」を前回と比べると、一般社員では減少し(69%→59%)、主任は若干増加(53%→57%)、課長は減少(56%→43%)、部長以上は増加(44%→75%)しました。 このうち、課長の「満足」低下は気になるところでした。上司のモチベーションは部下にも影響するため、今回一般社員の「満足」が低下した一因かもしれないからです。

図3.モチベーション状況
(2回目:組織改革 実施1年後)

満足
不満足
一般社員
59%
41%
主任
57%
43%
課長
43%
57%
部長以上
75%
25%


 では、どの要素において課長の満足感が低下しているのか?
 前述した4項目(会社方針、人間関係、作業条件、給与)について見たところ、「会社方針」「作業条件」において、前回よりも低下していることが分かりました(図4)。
 これを受けてA社内では当面可能な対策として、課長をはじめミドルマネージャーに対し会社方針について改めて説明し、理解を求めていくことにしました。

図4.満足度が低下した要素(課長)


 こうした甲斐もあってか、改革の3年後に行われたモチベーション診断では全体的に満足度が向上しました(図5)。業績が向上したことを受けて改革の2年後に行われた給与ベースのアップもプラス要因になったものと思われます。3年前(初回)のような“役職間の格差”も見られません。

図5.モチベーション状況(組織改革 実施3年後)

満足
不満足
一般社員
70%
30%
主任
67%
33%
課長
67%
33%
部長以上
82%
18%

絶えず仕組みや環境を整える


 「全体的には経過は良好で正直ホッとしている。もちろんこの先も良いとは限らないが。」とX社長。”やる気”改善成功のカギは、会社の施策についての明確な方針と実践にあったと見られます。

 一般にうまくいかない例としては、待遇や環境など制度面での具体事項は手つかずのまま、あれこれ進めてしまう場合などが挙げられます。“風通し”を良くしようと、トップと社員が直接ディスカッションする場を設けたり、社員同士が交流できるレクリエーションなどを企画するものの、それだけで終わってしまうようなケースです。こうしたことは、制度面での具体的な施策とセットで進める必要があります。

 X氏はこう続けました。「社員の“やる気”というものについて、データを眺めてあれこれ考えたのは今回が初めてだ。半信半疑だったが、逆に、使えるものは何でも使えばいいという気持にもなった。」「でも、最後は勘。」モチベーション診断のデータはその裏付けという訳です。最終的な決断を後押しする「社員の声」の役割を果たしました。

 やる気という移ろいやすいものを把握し、コントロールするのは容易ではありません。人の価値観が多様に変化する時代においてはなおさらです。必要なことは、過去にとらわれず、絶えず気を配り、使えるものは使い、仕組みや環境作りを続けることです。A社のX社長はその心構えと具体的な施策の両方をお持ちでした。「施策実施」→「振り返り」→「計画」のPDCAをサイクルを継続することで、今後も安定した成果が期待できそうです。


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