フェーズ1:実施前


 従業員さんのストレスチェック(心理的な負担の程度を把握するための検査)の実施にこぎつけるための、準備のステップです。

 ストレスチェック制度について社内に周知し、その後のステップがスムーズに進むよう、社内体制を整えます。

 社内でストレスチェック制度を進めていくと、従業員さんのメンタルヘルスという、取扱いに慎重さを要する領域に踏み込んで行くことになります。制度があくまでも「メンタルヘルスの不調を未然に防止するため」であることを念頭において十分に準備し、後で従業員さんの認識とズレが生じないよう注意しましょう。

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1.事業者による方針の説明 (参照:厚労省マニュアル、印刷表記「-8-」ページ)


実施体制

 厚労省マニュアルでは、ストレスチェック制度を進めるにあたっての責任の主体は事業者であり、事業者は制度の導入方針を決定・表明することとされています。
 ストレスチェック制度については会社の施策・業務として取り組むということになるので、その旨を表明し、社内に周知します。以後は毎年継続していくことになるので、方針表明と併せて実務を担う担当者や責任者を任命することが適当です。実務の担当者は産業医との連絡・調整、安全衛生委員会等との連携や規定づくり等、ストレスチェック制度を推進するにあたって必要な役割全てを担います。組織図や体制表に掲載すれば社内での認知度合いも高まります。

ストレスチェック制度の実施体制の例

事業者

・ストレスチェック制度の実施責任
・方針の決定

ストレスチェック制度担当者
(衛生管理者、事業場内メンタルヘルス推進担当者など)

・ストレスチェック制度の実施計画の策定
・実施の管理 等

実施者(産業医など)
指示
実施事務従事者(産業保健スタッフ、事務職員など)

ストレスチェックの「実施の事務」
※個人情報を扱うため守秘義務あり

・ストレスチェックの実施(企画及び結果の評価)
・面接指導の実施

・実施者の補助(調査票の回収、データ入力等)

(厚労省マニュアル 印刷表記「-24-」ページから転記・編集)


方針表明

 方針を表明するのは口頭にとどめず、文書を作成して通知することが望ましいです。5W1Hに準ずる内容を盛り込みます(誰が、何を、いつから、なぜ、どのようにして、等)。社内通達等で使用しているフォーマットが既にある場合は、そこにあてはめるのもよいでしょう。
 いずれの場合でも、以下の項目を盛り込みます。

方針に盛り込む項目

  • 法律に基づき、ストレスチェック制度を導入すること(宣言)
  • 目的や制度の主旨(初めて知る人向けの簡単な説明)
  • 従業員へのストレスチェック(検査)受診のお願い
  • 検査の実施時期
  • 検査の実施方法
  • 個人情報の保護について
  • 社内体制について
 方針表明の時点で詳細が定まっていない項目については、後日、別途通知することにしてもよいでしょう。厚労省マニュアルでは方針表明についての具体的な方法は指示されていませんので、事業者ごとにやりやすい方法で構わないと思われます。
 なお、厚労省マニュアルでは安全衛生(健康)計画や新年度に向けての経営陣の経営方針と同時に発表したり、安全衛生(健康)方針の中にストレスチェック制度の内容等を含めて周知する、といった方法も効果的であるとしています。上記の方法と併せて検討してみてください。



2.衛生委員会等による調査・審議


 方針の表明と併行して、実際に従業員のストレスチェック(検査)へ進むための作業に着手します。

 厚労省マニュアルでは、必要な作業として次を挙げています。
  • 実施体制の確立:必要な役割ごとに分担を決めます。メインはストレスチェック実施者(検査者、検査機関等)の選定です。
  • 実施方法の決定:ストレスチェック(検査)の実施方法には、調査票(紙媒体)の他にオンラインやPC端末から実施する方法もあります。また調査終了後、どのような方法でストレスの高い人を判定するかや、ストレスの高かった人について次にどのようにしてもらうかなどを決めます。
  • 社内規程の策定:ストレスチェックは一時的なものではなく、今後定期的(年1回)に実施するものです。調査・審議して決めたルールや手順、約束ごと等については社内規定として文書化し、様々な局面において、法令等に次ぐ判断基準(スタンダード)とします。
 そして、これらについて審議・検討を行う担当として、社内の「衛生委員会」を挙げています。「衛生委員会」とは、社内の安全衛生管理者、衛生管理者、産業医、労働者など複数のメンバー(委員)で構成され、労働者の安全と健康の確保などについて調査審議し、雇用主である事業者に対し意見を述べる社内委員会です。法律では業種を問わず常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、衛生委員会を設けなければならないとされています(労働安全衛生法第18条1項)。厚労省マニュアルでは、ストレスチェック制度の対象となる従業員数50人以上の事業場であれば既に設置されているという前提に立っているものと見られます。

 衛生委員会の主旨に照らせば、ストレスチェック制度は衛生委員会で扱うのが妥当と思われます。同委員会は毎月1回以上の開催が法律で義務付けられていますが(労働安全衛生法 労働安全衛生規則第23条1項)、委員も普段は従業員として働いているので、たいていは忙しい合間を縫っての開催となり、メンバーが欠けることもしばしばと聞きます。産業医とのスケジュール調整も必要です。ストレスチェック制度に関する調査・審議の担当として衛生委員会を中心に据える場合は、こうした課題も解決する必要があるかもしれません。
補 足
 安全衛生委員会等の仕組みや活動について、独立行政法人 労働者健康福祉機構 東京産業保健総合支援センター(http://sanpo-tokyo.jp/)のWebサイト内で提供されているPDFファイル「労働衛生のハンドブック」に分かりやすく解説されています(平成27年度版では38~51ページ)。また、事業場におけるメンタルヘルスケア全般についての各種解説も掲載されているので一読することをお勧めします。

(直接のリンクは設けていませんので、太字の文言を元に検索してください)

 調査・審議の結果は、社内規程や実施計画書などにまとめあげます。これらには以下の項目が含まれている必要があります。(詳細は、厚労省マニュアル 印刷表記「-12-」~「-13-」ページ)

①ストレスチェック制度の目的に係る周知方法

②ストレスチェック制度の実施体制

③ストレスチェック制度の実施方法

④ストレスチェック結果に基づく集団ごとの集計・分析の方法

⑤ストレスチェックの受検の有無の情報の取扱い

⑥ストレスチェック結果の記録の保存方法

⑦ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析の結果の利用目的及び利用方法

⑧ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の開示、訂正、追加及び削除の方法

⑨ストレスチェック、面接指導及び集団ごとの集計・分析に関する情報の取扱いに関する苦情の処理方法

⑩労働者がストレスチェックを受けないことを選択できること

⑪労働者に対する不利益な取扱いの防止

 このうち⑩についてですが、ストレスチェック(検査の部分)は従業員に対して受検を義務付ける規定が現時点ではありません(厚労省マニュアル:印刷表記「-6-」ページ)。強制はできないものの、社員の多くが受検しないのでは社内の状態が把握できず、メンタルヘルス不調の未然防止や職場の改善といった目標が達成できません。従業員の意向を尊重しつつも、できるだけ受検するよう働きかけます。

 なお、ストレスチェックの実施状況(在籍者数、受検者数、面接指導を受けた人数)については、法律に基づき労働基準監督署に報告する義務があります(労働安全衛生法 労働安全衛生規則 第52条の21)。また、報告義務を怠ると罰則があります(労働安全衛生法第120条の5、120条の6)。この辺りは法律に基づく「義務」の部分と指針やマニュアルに基づく「努力」の部分とがからみあっており、注意が必要です。(現時点では、例えば従業員数100人でストレスチェック受検人数が10人と報告した場合、行政側から何か指導を受けるのか受けないのか、当方では把握できていません)

 労働基準監督署への報告要領と報告書式のサンプルが厚労省マニュアル「-98-」~「-99-」ページ (印刷表記)にかけて掲載されています。報告様式は以下からダウンロードできます。

労働基準監督署 報告書式 »
(厚生労働省ホームページ内にリンク)


3.社内規程、実施計画書の例


 衛生委員会等による調査・審議の成果物としての、社内規程の例が厚労省マニュアルに掲載されていますので、完成イメージとして一度目を通して見ることをお勧めします(印刷表記「-16-」~「-22-」)。上記の①~⑪までの項目について具体的にどのような検討を行わなければならないのか、イメージできると思います。
 なお、この部分をMicrosoft Word形式に変換したものを以下からダウンロードできます。
社内規程の例 »
(Microsoft Word 形式 ダウンロード)


 社内規程が定まったら、次は実行に移すための「実施計画書」を作成します。社内規程は一度作れば(改定を重ねながら)ずっと使っていくものですが、実施計画書は毎年ストレスチェックを実施する度に作成します(法令等での決まりはありません)。実施計画書の例を以下のリンクからダウンロードできますので、参考にしてください。なお、これは旧バージョンの厚労省マニュアル(平成27年5月版)の「-15-」ページから「-20-」ページ(印刷表記)に掲載されていたものを抜粋したものです。
実施計画書の例 »
(Microsoft Word 形式 ダウンロード)




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